子ども持てなくても、次世代支える考えを~産婦人科クリニックさくら・桜井明弘院長インタビュー③

桜井明弘産婦人科クリニックさくら院長
桜井明弘産婦人科クリニックさくら院長

筆者は月刊誌「文藝春秋」8月号に「『不妊治療大国』日本の悲劇」という記事を書いています。その中で取材した桜井明弘医師(産婦人科クリニックさくら院長)のインタビューです。非常に興味深い内容でしたが、誌面では少ししか書けていないので、こちらに全文を掲載します。

 

①卵子凍結、どこまでできる?

②卵子提供・代理出産の問題とは

③バブル期の女性が”被害者”

 

■都合のいい話しか聞かない
――マスコミの偏った報道によって、「高齢でも出産できる」というイメージだけが広がってしまったのですよね。みんな自分にとっての都合のいい部分だけを捉えてしまうと。

 

普段の健康についての意識もそうです。健康診断を真面目に受けている人もいれば、「私ががんになるわけはない」と思い込んでいる人もいます。それで日本のがん検診受診率は世界の中でかなり低い、ということもありますね。

 

――確かに、日本人は興味のあるところしか見聞きしようとしない、という傾向があると思います。

 

だからこうやって「卵子老化」に関する話がテレビや雑誌などで取り上げられ、どんどん広がっていくことが僕らの願いです。どこかで社会構造を変えないといけません。女性の社会進出が進んだのはバブル期で、その時期以降の女性たちが“被害者”と言えます。それより若い世代の女性たちは、それに気付き出し、さまざまな場で教育を受けたり情報を伝えられるようになってきています。少子化対策を考えるなら、その方たちにかけるしかないでしょう。今後の人口減を、指をくわえて見守っているのではなくて、どうやって増やすかを真剣に議論しないといけません。現在の出生数が増えても、その人たちが働けるようになるのは20年以上先の話だから、今動き出さなければいけません。

 

■子どもを持てなかったとしても

――出生数を増やすことと、生まれた子どもたちを支えていく体制整備ですね。

 

そのためには、残念ながら子どもを持てなかったバブル期以降の女性たちにも、一生懸命考えてもらいたいと思います。僕のクリニックでも「これで治療を終わりにします」と仰る方もいます。だけど彼女たちは子どものいない人生を謳歌していかないといけません。そしてこの国で生きていくならば、次代を担う子どもたちを支えることを考えてもらいたいのです。DINKSの人たちが「なぜこんなに税金を払わなければいけないのか」という声も聞きますが、自分たちの将来に返ってくるということを分かってもらいたいです。

 

――この話が盛り上がっている今、考えるには良い時期だと思います。先生は、通常診療の合間にも、こういうテーマも含めて講演活動などよく行っておられますね。

 

僕らは悲しむ患者さんたちを見てきたから、しつこく啓蒙活動を行っているのです。僕の講演を聞いた女性から「大学でも講演してください」と言われることがあります。最高学府に行く女性たちは、社会の中心になっていきたいという思いを持っていると思いますが、「母と同じように自分も産める」という前提でいてはいけないのだということを、伝えないといけないと思います。そして何より、高校生や大学生の性教育に取り入れないといけません。「こういう話を聞いたよ」と、友達や職場の仲間と情報交換してもらえるかもしれないと思って、草の根運動だと思って続けていくつもりです。

 

 

(おわり)