ニュース解説「異論反論」

医療・介護に関する時事ネタ解説。マスメディアでは報道されない裏話や背景から、分かりやすくお伝えします。

2013年

7月

17日

119番通報したら、消防車が来る?

【参考画像】東京消防庁のデモンストレーション(7/13臨床救急医学会)
【参考画像】東京消防庁のデモンストレーション(7/13臨床救急医学会)

 救急車が出払っている時に、消防車が救急現場に駆け付ける工夫をしている地域があることをご存知でしょうか? 年々増える救急要請に対応するための仕組みですが、東京の場合、平均して一日の搬送件数の2割に消防車が出動しているのです。有賀徹氏(昭和大病院長)は17日の救急医療に関するシンポジウム で、この現状について「病院前救護では救急車が行くということになっている。これはどう考えても破綻している」と話しま した。

 2012年の救急搬送件数は580万2039件で過去最高となり、ほぼ毎年増加で推移しています。このため、救急要請があっても救急車が出払ってしまっているなど、救急隊が対応しきれないことがあります。こうした状況を解決しようと、消防機関の6割が、消防車(Pumper)と救急車(Ambulance)で連携して現場に駆け付ける取り組み(PA連携)を行っています。各機関で仕組みは異なり、東京では救急車がいない場合に消防車が出動します。火災の場合は複数台の消防車が出ますから、消防車が一台で走っている場合は、ほぼ救急現場に向かっていると言えるでしょう。横浜市では緊急度や重傷度の高そうな要請に対して、救急車と消防車を同時に走らせ、早く着いた方が先に応急処置を始めています。

 

 しかしこれらはあくまで応急的か、より早く現場に到着するための方法。基本的に救急現場に駆け付けるのは救急車です。救急車には、医師の指示を受けて救急救命処置を行う救急救命士の乗車が義務付けられていますが、PA連携の消防車には、救命士が乗っていない地域もあります。AEDなど救急車が積んでいる資器材が積まれていないこともあります。PA連携にはガイドラインなど運用に関する基準がないため、各消防機関の独自の解釈や運用で行われているためです。消防機関からは、国に対してガイドラインの作成を求める声も聞かれます。

 

 東京消防庁のデータを見ると、消防車の救急現場出動が常態化している様子が伺えます。2010年の救急出動件数は70万981件。このうち消防車が出動したのは12万1317件と、17%。ほぼ5,6人に1人の傷病者の元には消防車が駆けつけているのです。「東京消防庁は『破綻している』とは言わずに『頑張っている』と言う。でもこれはどう考えても破綻している」と有賀氏は述べました。

 

 119番と言えば、救命士の乗った白い救急車が来ることを当然のように思い浮かべます。しかし、救命士のいない消防車が来るかもしれないのです。さてこの現状は、整った救急医療体制と言えるのでしょうか?

 

 

2013年

6月

04日

ニュース解説・異論反論③医療事故調査組織の創設の裏側

最後の検討部会が開かれた厚労省の講堂。報道陣が多く、注目されていた様子が分かる。
最後の検討部会が開かれた厚労省の講堂。報道陣が多く、注目されていた様子が分かる。

 診療行為に絡んで予期せず患者が死亡した場合に、民間の第三者機関への届け出と院内調査の実施を医療機関に義務付ける制度の概要が29日、厚生労働省でまとまりました。これだけ読んでも「何のこと?」ですよね。テレビ・新聞等でも報道される注目度の高いネタですが、一般からするとイマイチ意味が分からないと思います。しかし業界内からは「医療者と患者の溝を深める」「医療が崩壊する」という厳しい意見が上がっています。ちょっと複雑ですが、マスコミの書かない裏側を解説します。

 

■新制度の概要

医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会資料より
医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会資料より
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2013年

5月

23日

ニュース解説・異論反論②出産事故の補償金制度

やっぱり変だった、出産事故の補償金制度

 各社の報道によると、出産事故で重度の脳性まひの赤ちゃんが生まれた際に3000万円の補償金が支払われる「産科医療補償制度」について、多額の剰余資金が生じているとして、産科施設と母親らが掛け金の一部の2082万円の返還を求め、国民生活センターに対して裁判外紛争解決手続き(ADR)を申し立てています。

 

 制度設計やお金の流れについて、「妊婦と赤ちゃんを盾にとり、厚労省の外郭団体にお金をプールする仕組みだ」と批判され、制度創設前から大揉めに揉めてきた制度ですが、やっぱり突っ込まれたと思いました。

 

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2013年

5月

17日

ニュース解説・異論反論①子宮頸がんワクチン副作用問題

だから無過失補償制度が要る~子宮頸がんワクチン副作用問題から

 子宮頸がんワクチンの副作用問題が大きく取りざたされ、被害者の家族らは接種の一時中止を要望しています。副作用被害を受けた被害者の方、ご家族の方のお気持ちを忖度するのは憚られますが、とてもおつらい状況で、どうしてこのようなことになってしまったのかというやり切れないお気持ちを抱えておられるのではないかと、思いを巡らせます。心から、お見舞いを申し上げたいと思います。

 

 ただ、ワクチンに100%完全なものなどはなく、どうしても一定の割合で副反応は起き、重篤な後遺症となってしまう方もおられます。だからこそ、過失云々を言う前に、そういう状況に陥っている方々を素早く広く救おうという、無過失補償制度が必要だと、今改めて思っています。

 

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2015年

9月

06日

書籍「地域包括ケアの課題と未来‐看取り方と看取られ方」出版のお知らせ

 今日は私、代表熊田の個人的なお知らせです。私が2014年から1年間勤めた亀田総合病院(千葉県鴨川市)地域医療学講座が千葉県より助成を受けて出版した書籍「地域包括ケアの課題と未来‐看取り方と看取られ方」(ロハスメディア社)が発売されました。

 盛んに言われる「地域包括ケア」に関して、各地域が恐らく共通して抱えている、もしくは今後ぶつかるだろう課題について、各分野の専門家がピンポイントで語っています。贔屓目ではなく、地域医療介護の抱える問題をこれほど網羅した書籍は見たことがないと思っていますし、業界のタブーに切り込んだ部分が随所に見られます。医療介護職や行政など専門職向けにはなりますが、ぜひお手にとってご覧いただきたいと思います。

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2015年

5月

15日

第9回メディ・カフェ@関西 「看取った家族が後悔すること~終活を自己満足で終わらせない為に(仮)」6/7@大阪

医療について気軽に語り合う場を提供している市民団体「メディ・カフェ@関西」とのコラボイベントを6月7日(日)午後1時から、大阪市内で開きます。テーマは「看取った家族が後悔すること~終活を自己満足で終わらせない為に(仮)」。月刊文藝春秋5月号に書いた記事の話も織り交ぜながら、参加者の皆さんとざっくばらんに看取りや終末期医療について語っていきたいと思います。ぜひご参加ください!

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2015年

4月

13日

文藝春秋5月号に終末期医療の記事掲載

 現在発売中の月刊「文藝春秋」5月号医療特集に「看取った家族が後悔すること」という記事を書いています。ぜひ、お手に取って頂けたら嬉しいです!

 

 今回の記事を書くきっかけになったのは、取材で出会ったご家族の言葉でした。認知症によりコミュニケーション不通となった義母を病院で看取ったお嫁さんが「義母に延命治療をしないと、夫と二人で悩んで決めたけど、本当にそれでよかったのか後悔している」と話してくれたことです。私から見れば、そのお嫁さんはとても丁寧に介護を続けてきておられたし、義母の最期にも何も不自然な点はなく、老衰による自然な最期でした。「無理に延命をしない」という方針も、夫とよくよく話し合って決めておられました。それなのに「後悔している」と話されたので、逆に驚いたのです。これだけ真摯に介護をしていながら、なぜ後悔が残る? これが、取材のきっかけでした。


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2014年

12月

12日

梅ちゃん先生のティールーム第2回~井上清成・弁護士⑤「解決」までが医療

右から梅村聡氏、井上清成氏、熊田
右から梅村聡氏、井上清成氏、熊田

梅村:先生とお話ししていて気付いたのですが、先生はもちろん裁判などで医師を守る場面もあるとは思うのですが、結構斜めから見てはるんですよ。例えば医療事故調の議論の中で「自分たちで解決していくプロセスも含めて医療なんだ」ということをおっしゃってますよね。そのプロセスをつくって医療界に内包していかないと、本当の意味では国民から信頼されない。それが本当の意味で医師を守ることになると。「医療というのは治す作業だけだ」と言って殻に閉じこもっちゃうと医療のレベルは落ちるし、国民からの信頼は無くなる、という思いで活動されていると僕は思いました。


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2014年

11月

17日

文藝春秋オピニオン「2015年の論点100」に記事掲載

 現在発売中の文藝春秋オピニオン「2015年の論点100」に拙記事「年間47万人へ―看取りなき『その他死』が激増」が掲載されています。

 ぜひ書店などでお求めいただけると嬉しく思います。


 今回の論旨は、日本の高齢化に伴う死亡者数増加により、死ぬ「場所」がなくなってしまうという話です。一体どういう意味でしょう?

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2013年

7月

17日

119番通報したら、消防車が来る?

【参考画像】東京消防庁のデモンストレーション(7/13臨床救急医学会)
【参考画像】東京消防庁のデモンストレーション(7/13臨床救急医学会)

 救急車が出払っている時に、消防車が救急現場に駆け付ける工夫をしている地域があることをご存知でしょうか? 年々増える救急要請に対応するための仕組みですが、東京の場合、平均して一日の搬送件数の2割に消防車が出動しているのです。有賀徹氏(昭和大病院長)は17日の救急医療に関するシンポジウム で、この現状について「病院前救護では救急車が行くということになっている。これはどう考えても破綻している」と話しま した。

 2012年の救急搬送件数は580万2039件で過去最高となり、ほぼ毎年増加で推移しています。このため、救急要請があっても救急車が出払ってしまっているなど、救急隊が対応しきれないことがあります。こうした状況を解決しようと、消防機関の6割が、消防車(Pumper)と救急車(Ambulance)で連携して現場に駆け付ける取り組み(PA連携)を行っています。各機関で仕組みは異なり、東京では救急車がいない場合に消防車が出動します。火災の場合は複数台の消防車が出ますから、消防車が一台で走っている場合は、ほぼ救急現場に向かっていると言えるでしょう。横浜市では緊急度や重傷度の高そうな要請に対して、救急車と消防車を同時に走らせ、早く着いた方が先に応急処置を始めています。

 

 しかしこれらはあくまで応急的か、より早く現場に到着するための方法。基本的に救急現場に駆け付けるのは救急車です。救急車には、医師の指示を受けて救急救命処置を行う救急救命士の乗車が義務付けられていますが、PA連携の消防車には、救命士が乗っていない地域もあります。AEDなど救急車が積んでいる資器材が積まれていないこともあります。PA連携にはガイドラインなど運用に関する基準がないため、各消防機関の独自の解釈や運用で行われているためです。消防機関からは、国に対してガイドラインの作成を求める声も聞かれます。

 

 東京消防庁のデータを見ると、消防車の救急現場出動が常態化している様子が伺えます。2010年の救急出動件数は70万981件。このうち消防車が出動したのは12万1317件と、17%。ほぼ5,6人に1人の傷病者の元には消防車が駆けつけているのです。「東京消防庁は『破綻している』とは言わずに『頑張っている』と言う。でもこれはどう考えても破綻している」と有賀氏は述べました。

 

 119番と言えば、救命士の乗った白い救急車が来ることを当然のように思い浮かべます。しかし、救命士のいない消防車が来るかもしれないのです。さてこの現状は、整った救急医療体制と言えるのでしょうか?

 

 

2013年

6月

04日

ニュース解説・異論反論③医療事故調査組織の創設の裏側

最後の検討部会が開かれた厚労省の講堂。報道陣が多く、注目されていた様子が分かる。
最後の検討部会が開かれた厚労省の講堂。報道陣が多く、注目されていた様子が分かる。

 診療行為に絡んで予期せず患者が死亡した場合に、民間の第三者機関への届け出と院内調査の実施を医療機関に義務付ける制度の概要が29日、厚生労働省でまとまりました。これだけ読んでも「何のこと?」ですよね。テレビ・新聞等でも報道される注目度の高いネタですが、一般からするとイマイチ意味が分からないと思います。しかし業界内からは「医療者と患者の溝を深める」「医療が崩壊する」という厳しい意見が上がっています。ちょっと複雑ですが、マスコミの書かない裏側を解説します。

 

■新制度の概要

医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会資料より
医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会資料より
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2013年

5月

23日

ニュース解説・異論反論②出産事故の補償金制度

やっぱり変だった、出産事故の補償金制度

 各社の報道によると、出産事故で重度の脳性まひの赤ちゃんが生まれた際に3000万円の補償金が支払われる「産科医療補償制度」について、多額の剰余資金が生じているとして、産科施設と母親らが掛け金の一部の2082万円の返還を求め、国民生活センターに対して裁判外紛争解決手続き(ADR)を申し立てています。

 

 制度設計やお金の流れについて、「妊婦と赤ちゃんを盾にとり、厚労省の外郭団体にお金をプールする仕組みだ」と批判され、制度創設前から大揉めに揉めてきた制度ですが、やっぱり突っ込まれたと思いました。

 

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2013年

5月

17日

ニュース解説・異論反論①子宮頸がんワクチン副作用問題

だから無過失補償制度が要る~子宮頸がんワクチン副作用問題から

 子宮頸がんワクチンの副作用問題が大きく取りざたされ、被害者の家族らは接種の一時中止を要望しています。副作用被害を受けた被害者の方、ご家族の方のお気持ちを忖度するのは憚られますが、とてもおつらい状況で、どうしてこのようなことになってしまったのかというやり切れないお気持ちを抱えておられるのではないかと、思いを巡らせます。心から、お見舞いを申し上げたいと思います。

 

 ただ、ワクチンに100%完全なものなどはなく、どうしても一定の割合で副反応は起き、重篤な後遺症となってしまう方もおられます。だからこそ、過失云々を言う前に、そういう状況に陥っている方々を素早く広く救おうという、無過失補償制度が必要だと、今改めて思っています。

 

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