梅ちゃん先生のティールーム第2回~井上清成・弁護士⑤「解決」までが医療

右から梅村聡氏、井上清成氏、熊田
右から梅村聡氏、井上清成氏、熊田

梅村:先生とお話ししていて気付いたのですが、先生はもちろん裁判などで医師を守る場面もあるとは思うのですが、結構斜めから見てはるんですよ。例えば医療事故調の議論の中で「自分たちで解決していくプロセスも含めて医療なんだ」ということをおっしゃってますよね。そのプロセスをつくって医療界に内包していかないと、本当の意味では国民から信頼されない。それが本当の意味で医師を守ることになると。「医療というのは治す作業だけだ」と言って殻に閉じこもっちゃうと医療のレベルは落ちるし、国民からの信頼は無くなる、という思いで活動されていると僕は思いました。


井上:その通りです。ある講演で患者の立場の方から、「井上先生はなぜ『本気でお医者さんを守ってやる』と言えるんですか」と言われました。私は一言、「だって、今攻撃しちゃったら、ぎりぎりの医療がもっとぼろぼろに崩れちゃうでしょう。そうすると損するのは私たち国民でしょう」と言いました。その意味は、なんでもかんでもお医者さんを守ればいいということではなくて、彼らが自らしておかないといけないことはある、ということです。うまく事故調をやっていれば自分達の身を守れる、そういうメリットもあるからやろうよと言ってるんですね。

梅村:医師の中にも、人間として許されへんようなことする者が、一定割合はいるんです。事件とかで表沙汰になるのはそういう人らです。でも、そういう人に限って裁判闘争やマスコミからの袋叩きに遭っても生き残るんですよ。でも、大多数の医師は普通の人で、悪いことなんかしません。ところが、一部の悪いやつらのために彼らまでがバッシングされている雰囲気になり、ドロップアウトしていくんです。ゴキブリを殺さなあかんと思って殺虫剤をまいたら、家の大事な家畜とかペットが死んでしまい、肝心のゴキブリは逃げ足が速くて逃げてしまった、というような感じでしょうかね。


井上:弁護士の場合は、人の金を着服したりするのがいます。そういう人間を少なくしようと思ったら、弁護士という職業を儲かるようにしておけばいいんです。お金に困るから着服するんですからね。生活のレベルを下げるか儲かるようにするかのどちらかで、これはバランスなんだけど、そういうことを総合的に業界として考えてやらなきゃいけません。でもどうやったって酒を飲んで金を無くしちゃうような、そういうばかがいるんです。これは弁護士にも、医者にも一定確率います。マスコミならねつ造の記事を書いたり、昔の写真を使っちゃうようなやつが一定確率いるんですよ。そんなのは当たり前で、どんな業界でも、どんな聖人君子と言われる職種であっても、必ず一定確率います。それを大前提に考えなくちゃいけないんです。ヒューマンエラーをゼロにはできないのと同じなので、ゼロにしようと思うところに無理があります。だからできるだけそういうやつを少なくするにはどうしたらいいか、と考えないといけない。それをゼロにする政策をとろうとするから、梅村先生がおっしゃるように、周りが死ぬわけです。


梅村:家中に殺虫剤をまけばいいわけですからね。


井上:結局みな自己統制して、全体が沈滞したら何が起こるか。マスコミの場合は、国民はいろんな事実を知ることができなくなり、情報統制されて時の権力者の思うようになります。お医者さんなら、国民は積極的な医療を受けられなくなる。


梅村:国民が良い医療を受ける権利を侵害されるんですよね。


井上:悪いのをあげつらえば、真面目なやつが引いていきます。だから他の分野の手口を動員してでもやるしかないわけです。

梅村:先生は、そのために法律という手段を使っておられるんですね。


井上:はい、私はあくまで法律家なんです。今は法律と医療の間に大きなギャップがありすぎるから、法律を医療に使うとろくなことがないと思うわけです。だから法律の使い方を考えるか、アレンジをするか、法律自体を変えていくか。みんな「医療を法律に合わせろ」みたいなことを言うんだけど、それはナンセンスだと思います。法律がそもそもずっこけてるんだから、という発想を持っているんです。そこから発言しているので、アプローチが違うんですね。もちろんお医者さんたちにもやってもらうことはやってもらわないと困るわけですが。


梅村:先生はそう考えたら根っからの弁護士で、士(さむらい)業なんですよね。


(おわり)

 

 

①警視庁管内で公安担当だった父の影響で弁護士に

②子ども心に見た警察組織の裏側

③“教育崩壊”と“医療崩壊”の構造は同じ

④“萎縮医療”で損するのは国民