門前薬局の差別化を図れ! ~天満カイセイ薬局の待ち時間解消サービスの取り組み

患者に血管年齢測定の説明をする天満カイセイ薬局の大上直人薬局長(右)
患者に血管年齢測定の説明をする天満カイセイ薬局の大上直人薬局長(右)

 薬局の競争が激化する中、差別化を図ろうと患者サービスなどの取り組みを始める薬局が増えつつあります。関西に34か所の薬局チェーンを展開する株式会社育星会では、4月の社員研修で新しい取り組みを考えるグループワークを行い、各店舗で決めたアイディアを実行しつつあります。私は研修時、「実際に行っているところをぜひ見たい」と話していたので、いくつかの店舗のイベントにお邪魔してきました。

 11月16日にお邪魔した天満カイセイ薬局は、通りを挟んだ向かいに約700床規模の3次救急病院があり、門前薬局激戦区に位置します。周囲との差別化が課題とされる中で取り組んだのは、待ち時間解消のための健康イベントの実施。機器を使って血管の硬さなどを測る「血管年齢測定」や、脳の前頭前野の働きを見る「脳年齢測定」のサービスを行いました。

 「ここで『血管年齢』と『脳年齢』を測定できるので、ちょっとやってみて行かれませんか?」 薬局長の大上直人さんが処方箋を出しに来た女性患者に声をかけます。女性は「ほんまの歳よりも上になったらどうしよう」と言いながらも、笑って測定機の前に座ります。「指を挟んで測定しますので、しばらくお待ちくださいね」。大上さんが女性の指に測定機器を挟むと、女性はしばらくの間腰掛たまま待ちます。測定が終わり、画面に結果が表示されました。「ああ、歳よりも若かったわ~」。女性は嬉しそうに大上さんに向かって笑います。「今飲んでおられる高血圧の薬が合っていることもあるかもしれませんね」。大上さんが言うと、女性は「よかったわ~」と安堵した様子。大上さんは「脳年齢」の測定も勧めましたが、「それこそ歳より上やったら嫌やから」と、笑って遠慮しました。

 大上さんと女性のやり取りが終わった頃には調剤も完了。薬剤師のスタッフが女性に薬を渡し、説明します。女性は会計を済ませ、笑って薬局を出て行きました。

 この日は10時から14時の間にイベントを実施。処方箋を持ってきた患者が薬を待つ間に利用してもらい、待ち時間の苦痛を緩和してもらうことが目的です。イベントを通して、患者に自分の身体や健康により関心を持ってもらったり、薬剤師と普段とは違うコミュニケーションを持ってもらうことも考えました。本社の持つ測定器を前日に搬入し、カウンター横に設置。薬剤師や薬局事務スタッフが声をかけ、まずは血管年齢を測定してもらい、興味を持った人には脳年齢も測ってもらうようにしました。

 

*今回使用されていた「血管年齢」の測定器は、指を機器に挟むことで計測するというもの。「脳年齢」はコンピュータの案内に従い、画面上に現れる1~25までの数字をタッチしていく速さで測るというものでした。

 

調剤室内の様子
調剤室内の様子

 大上さんは「大きい病院では待ち時間が苦痛です。その上薬局でも待たされたら、かなりの苦痛になります。その待ち時間の質を上げるのが薬局の役目ではないかと思いました。どう待つか、が大事だと思います。全く初めてのことなので、まずはやってみようということで、あまり混雑しない土曜日にしました」

 薬剤師2年目の谷岡沙良さんは、「患者さんが測定しておられる間に調剤できるので、調剤側のタイムプレッシャーがなくて済みます。患者さんも喜んでおられるし、私たちも落ち着いて調剤できるのでよかったです」と話します。混雑時は調剤する薬剤師側にも焦りが出るため、その解消にも役立ちそうとのこと。
 
 薬局事務を17年務める長谷川恵さんは、この薬局が処方を多く受ける病院は比較的待ち時間が長く、苦痛を感じている患者への接し方に悩んでいたと話します。「中にはほぼ一日がかりで受診される方もおられます。その上薬でも待たされて、怒ってしまう方もおられました。私たちから世間話をしたり、声をかけることも考えますが、話をして和む方ばかりでもありませんし、かえってイライラされる方もおられるので、難しいところでした。今日は思った以上に多くの方が測定に応えてくださいました。こういうのがあって話すと話しやすく、全然違います」。長谷川さんの悩みにも、全く別の話題を持ち込むことが奏功したようです。

 14時までに処方箋を持ってきたのは38人。「血管年齢」を測ったのは34人。「脳年齢」は25人。患者は20代から70代までと様々でした。

 測定を受けた大阪市内に住む60代の男性は「いつもは待っているだけなので、こういうのがあるといいと思います。ただ、その結果に対してどうしたらいいかという対策も教えてもらいたかったです」と話しました。

 大上さんは「予想していたより多くの方に測定していただけて、喜んで帰って行かれる方が多くてよかったです。こうやってこの薬局の存在感を出していければと思います」と話しました。

測定の説明をする扇町カイセイ薬局の楠見朋子薬局長(左)
測定の説明をする扇町カイセイ薬局の楠見朋子薬局長(左)

 実はこの1週間前の11月9日、別の用事があって、偶然にも別店舗の扇町カイセイ薬局さんの前を通り掛かったのです。店舗の前でスタッフさんが呼び込みをしていたので、「これはもしかして」と思って声をかけると、大当たり! こちらの店舗でも「血管年齢」と「脳年齢」の測定イベントをしていたのでした。

 こちらも10時から14時に実施。私が訪問したのは13時頃でしたが、その時点で20人が測定に訪れていました。周囲の門前薬局との差別化を打ち出していた天満店とは少し趣が違い、地域密着型の薬局のイメージを前面に出していたように感じられました。2週間前から店舗前に黒板を置き、近隣の住民や、サラリーマンなどにイベント実施を宣伝していたそうです。その甲斐あってか、当日は近隣のダンススクールに通う20代の若者から80代の高齢者までが来店。イベント宣伝のポスターを貼ってもらっていた近隣の居酒屋の店長も訪れていました。

 薬局長の楠見朋子さんは、「患者さんと薬じゃないところで繋がれて、楽しいです。皆さん健康のことを気にしていることもよく分かったし、薬とは違うアプローチでできて嬉しいです。薬とは関係なく、こうして来店してもらえることはいいなと思いました」と、笑顔で話しました。