梅ちゃん先生のティールーム第1回~宋美玄・産婦人科医②「性」という医療の“空白”を取り上げたかった

産婦人科医の宋美玄さんと娘の真美ちゃん
産婦人科医の宋美玄さんと娘の真美ちゃん

■医者は「性」について習わない

 

梅村:本の出版やテレビ出演とか、これはどういうきっかけや思いで始めはったことなん?

 

宋:医療関係の相談を専門家が答えるというSNSのページがあって、そこで医療に関する一般の人の生の匿名の声に触れたんだけど、自分の前で患者さんが反応していることと全然違ったりとかするわけよね。当時、大野病院の医療事故(※)もあったけど、やっぱり一般の人たちの反応を見ると、医者に聖職者的なことを求めていたり、医療に完全を求めていたりする人たちもいた。「主治医にこんなこと言われたけど、おかしくないですか?」みたいな感じでね。もちろん、それも正直な気持ちだとは思うよ。でも、目の前の患者さん一人一人とお話をするだけじゃなくて、医療を受ける人の意識も変えないと、両者にとって良くないなと思って。それで最初は匿名でSNSやブログで、思っていることを発信するようになって、最初にそれを熊田さんが拾ってくれて。

 

(※大野病院の医療事故…2004年に福島県立大野病院で妊婦が帝王切開手術中に死亡。06年に執刀医の産婦人科医が逮捕、起訴され、08年に無罪となった事件)

 

司会:「妊娠の心得11か条」ですね。懐かしい。

 

宋:そう。それからちょっとずつ……。私、目立たずに生きるのが苦手やん(笑)。

 

梅村:わかる。わかる(笑)。

 

宋:なんか知らんけど、ちょっとずつ前に出るようになって、医療制度研究会とかで講演をさせてもらったりとか。そこで編集者と知り合ったりして、本を出したりするようになった。最初は地味な感じでやっててんけど。

 

司会:最初の出版は妊娠の心得11か条ですよね。当時私はネットニュースで記者をしていたのですけど、墨東病院事件(※)の後に先生がブログに書かれていたのを面白いと思って記事にしたんです。それが大手ポータルサイトのトップニュースに取り上げられて、そこから出版に至ったんですよね。その後に、先生の超ベストセラーになったあの本が出て。

 

(※墨東病院事件…2008年に東京都で起こった、脳出血を起こした妊婦が都立墨東病院を含む8つの病院に受け入れを断られ、最終的に受け入れられた墨東病院で死亡した事件)

 

梅村:あの本はどういう思いで出そうと思ったん?

 

宋:普段の診療で思っててんけど、産科医って、まず性のこと、セックスのこととかも全然知らない。国家試験でも習わないし。なかったよね、理論なんて。

 

梅村:ないよ。

 

司会:性に関することを、医学部の過程の中で全然習わないんですか?

 

梅村:ほとんどないない。

 

宋:確かに専門試験の教科書にちょろっと載ってるけれども、産科医と飲み会とかで話をしても誰も知らない。でも患者さんからは時々聞かれるから、「やっぱりムードちゃう?」とか言ってるけど、どうなんやろう、みたいな。

 

梅村:今の話を僕の専門で例えたら、糖尿病です。たとえばタンパク質何グラムとか、糖質なんぼとか、食品交換表なんぼとかっていうのがあって、そういう理論は分かってる。でも糖尿病の患者さんに「こういう店に行ったときにどんなものを頼んだらいいのか?」とか「自分で作るとき何に気を付けて作ったらいいのか?」とか、そういうことを訊かれた時、どう答えたら患者さんにきちんと伝わるのか、正直なところ難しい。

 

宋:そういう実践的なことは習わない。私ら、免許的に栄養士よりも上のはずやのに、栄養士に指導できることってほとんどないよ。

 

梅村:ないない。だって、食欲とか性欲とかっていうのは、あくまでも欲だから、形式とかマナーとか、そういう事に関しては、生活の中での話であって、医学ではないという、そういうことだよね。

 

司会:理論は知ってても、実践的ではないと。

 

宋:風潮として、医学ではないっていう。でも、性科学の知識を、それこそセックスする人はみんな知っといた方がいいんちゃうかと思って。東京の出版社とやりとりしながらだったから3、4年もかかって。まさかあんなに売れるとは思わなかったけど。

 

梅村:ある意味、“空白”のとこですよね。

 

宋:私、“空白”が気になるので。性教育もそうだし。

 

梅村:でもね、それって勇気がいったでしょう?

 

宋:もちろん。もちろん。

 

梅村:なんで勇気が要ったかというと、宋先生を代弁すると、メジャーな話じゃないじゃない。もう一つ、色物的というかね。

 

宋:そう、色物的。お偉いさんからすると、「そんなことで!?」みたいな。

 

梅村:それは自分の中でどう消化したん?

 
梅村聡さん
梅村聡さん

■「正確に伝えるために、自分に話題性を持たせる」

 

司会:私の中では、宋先生が『性教育は大切なのに、知識として正しくないAVとかがマニュアルのようにまかり通ってしまっている。でも日本人は有名な人の言うことでないと聞かないから、まず名前を売る。その後にきちんとしたことを伝えていく』とおっしゃってたことがすごく印象に残っていますけど。

 

宋:やっぱり影響力のある人にならないと、正しいことが広がるということは全くなくて。話題性と正確性は相反するものなので、正確なことを伝えたいんだけどでもそれだけでは伝わらない。そこで、正確なものを伝えるには、自分に話題性を持たせるしかないかなと思って。

 

梅村:それは正しいですよね。今話題になっている理化学研究所の小保方さん。まさに理研はそれを狙っていたわけで、STAP細胞がもし本当に存在するとしたらそういう影響力のある人になっていたのかもしれません。

 

宋:私も常に、『あいつはおかしい、胡散臭い』とか言われたら、その辺のタレント医師と一緒になってしまう。だから臨床もやり、産科の中でも他の先生が詳しくないような専門を持ち、発信する情報は裏をとり、本を出したら著名な方々に献本し、何かあったら意見を言って下さいと言ったりと、水面下では色々としてんねんけど。

 

梅村:『宋先生は胡散臭い』みたいな声を僕は聞いたことがないけどね。

 

宋:今のところはそれなりにうまくいっていると思う。でも、世の中には、目立つだけで『胡散臭い』とか言ってくる人はいるので、それはもうしょうがないやん。

 

梅村:テレビによく出てるタレントみたいな女医さんと同じように扱ってくる人がいるからね。

 

宋:マスコミに出ている人は信用できないって言う人いるじゃない? 私のやってる仕事が回り回って結局あなたのことを助けているかもしれないよとか、よく思うけどね。そういうことは置いといても、やっぱりなんやかんや、医療のためにがんばっているっていうのを目指しているかな。

 

梅村:なるほどね。僕が勝手に宋先生の性格を分析したら、そのあたりは結構繊細やもんね。

 

宋:そうね、20年前よりは少し大人になっているかな(笑)。

 

梅村:結構気にするもんね。

 

宋:そうやね。気にしなかったら、今までやってきたもんがなくなっちゃうからね。どんなことでも何か一つ起こってしまったら、崩れるのは簡単だから。

 

梅村:つぶれる時は一気やからね。実は僕も宋先生も同じB型なんですけど、結構そういう気にしいなところがあるんですよ。でもそれはね、信用をコツコツ作っていくことの重要性ですよね。

 

司会:二人ともB型なんですね。小ネタが入りました。

 

宋:2人とも早生まれやしね(笑)。

 

司会:B型で早生まれ、それも共通(笑)。 

 

(つづく)